神話は王権や国家の支配イデオロギーとして利用されやすいとのことだが、ヨーロッパの国々でも、近代においてそうしたことはあったのだろうか。 / 国の近代化を成し遂げようとしていたときに、神話のような古い存在に力が入れられた理由は何でしょうか?

近代が中世的なものとの決別とすれば、本来は宗教や神話の価値が弱まるはずなのですが、近代に勃興する国粋主義民族主義の場合は、やはりおしなべてナショナル/エスニック・アイデンティティの根幹たる神話が持ち出されてきます。多くの集団を国民国家に統合する際、彼らに〈想像の共同体〉を幻想させる核が必要になってくるわけですが、歴史的正当性と一定の共有範囲を持つ神話は、統合のイデオロギーとして最適であったのでしょう。ヨーロッパではやはりナチス政権がよい例で、野生の強大な力の象徴である狼など、ゲルマン民族に関わる神話的要素をさまざまに駆使しています。ヒトラーの愛好したワーグナーニーベルングの指環』などは、その典型といえるでしょう。