共同体レベルの神話と芸術レベルの神話はそもそもレベルが違うので比較はできない、とのことでしたが、この点、もう少し詳しくするとどのような説明になるのでしょうか。

比較できないわけではなく、「安易に」比較できないとお話ししたわけです。例えば、授業で扱った黄泉国神話とオルフェウス神話の形式的類似を例に、古代ギリシャ人と古代日本人の冥界観には共通性があるという結論に到達したとする。しかし黄泉国神話は国家レベルの神話、オルフェウス神話は文芸レベルの神話なので、それぞれが「反映」している集団が何なのか、その内容を共有している範囲・階層がいかなるものなのか検討しなければ、上記の結論を導き出せません。「古代ギリシャ人」「古代日本人」などという括りはアバウト過ぎて、ほとんど意味をなさないとさえいえます(例えば古代日本にも、黄泉国神話を伝えていない共同体は確実に存在したわけですから)。ゆえに神話の比較は非常に難しく、詳細かつ大部な作業を必要とするものなのです。