古代から日本は、人口の大半が文字を書くことができました。その点で他の国と異なり口承の部分が少ないと思うのですが、日本は例外的なのですか?

うーん、どこで得た情報か分かりませんが、それは幻想です。確かに、近世以降は江戸などの都市を中心に識字層が広がったといわれていますが、それでも農村も含めて人口の大半が文字を読み、書くことができたとはいえません。古代の場合はなおさらです。授業でもお話ししましたが、むしろ列島社会には、言霊信仰をはじめ口承に基づく文化的痕跡が顕著です。天皇詔勅は訓読するとミコトノリですが、これは接頭語ミ+コト(言)+ノリ(宣)の構成で、まさに神聖なコトバが発せられることを意味します。神や王族の敬称には「命」ミコトが使用されますが、これも接頭語ミ+コト(言)で、神聖な命令を発することこそが尊貴であることの証とされているようなものです。言=事であることも重要で、言語論的転回ではないですが、古代日本ではコトバが万象を形成しているとの思想が存在したのではないかと思われます。