秦氏の由来や古韓音の話を聞いて考えたのですが、日本の古代の書物に出て来る人名などの由来を考えるときは、本文に用いられる漢字より、その音の響きを重視して考えた方がよいのでしょうか?

そうですね、まずは音です。奈良時代までの場合、人名表記が異なる漢字で書かれることも少なくありませんので、音に注目したうえで、なぜその字が当てられているのか、あらためて考えてみる必要があります。例えば「蘇我蝦夷」ですが、エミシというのはもともと精強な人の意味で、東国の人々をそう呼称したのも、東国が肥沃で精強な土地柄だったためです。奈良時代にも、天皇側近の武力佐伯氏出身で、造東大寺司長官などを務め参議にまで昇った、佐伯今毛人などがみられます(彼の場合も「今蝦夷」表記がみられますが、一般的ではありません)。しかし「蝦夷」は、華夷思想において東方の蛮族を表す「夷」に、未開の象徴である長毛を示す「蝦」を付けた差別的表記で、恐らく『書紀』編纂時、蘇我本宗家を貶める意図で当てられたものでしょう。