神話には、複数のもので一部内容が酷似しているものがあると思いますが、それはどのようなメリットがあってオマージュしたのでしょうか。それとも偶然でしょうか。

神話は概ね集合的なものですので、作家主体の明確な文学のように、意図的に何かをオマージュして構築される、という見方はできません。国や地域、始祖に関するさまざまな伝承、森羅万象の起源を伝える多様な神話は、それぞれ、世界中にさまざまな形式があり、類似の環境・文化下における類似の形式の発生、伝播による交渉を通じて複雑に関連しています。絡みあった筋書きを持った伝承が、その成立過程で複数の神話の枠組みを取り込んでしまう、ということは頻繁に生じます。『旧約聖書』創世記などがよい例で、シュメールの粘土板などの発掘によって、世界を襲う大洪水や、蛇の物語が、聖書のオリジナルな神話ではないことが確認されています。