古代の史書の扱う時間が短いということは、当時の歴史家には古代・中世・近世・近代といった区分はまだなかった、ということでしょうか。

もちろんありません。紀元前後、古典世界でもキリスト教でもその萌芽はありますが、明確な時代区分が始まるのは授業で扱ったアウグスティヌスで、また現在の区分法に繋がる古代・中世・近代との3区分法は、ルネッサンス期を待たねばなりません。ただし、これは単に「過去を3つに分けた」ということではなく、古代を古典正統の時代と価値付け、現在をその復興と正当化し、中間をそれまでの経過、もしくは暗黒時代とみる考え方に基づいています。別のいい方をすれば、過去の一点と現在を繋ぐ神話的認識ともいえるわけで、そうした意味では、明確な形式はなくとも神話とともに存在した時間認識であると考えることも可能でしょう。