日本ではなぜ、口語を発することが尊貴さの象徴とされたのでしょうか。文化的であることが必ずしも尊貴さとは結びつかず、自然が重んじられたということでしょうか。

文字使用が一般的ではなかった古代社会においては、首長の口頭の命令、長老やシャーマンによる共同体の掟、神語りの託宣が、集団の結束と規律、円滑な経営を達成するうえで重要な意味を持ったことは間違いありません。また口頭のコトバは、その抑揚やリズム、声音、選ばれる言辞の音感などによって、コトバの意味内容とは別の次元で、聞く者の精神を感化してゆきます。それが巧妙な人間ほどリーダーシップを上手に取ることができ、人々をまとめ、集団を拡大しうるカリスマ性を持ちうる。尊貴さんの内実にオーラルなコトバの駆使が含まれるのは、まずはそのあたりに要因があると思われます。