1948年に制定された「優生保護法」について調べているのですが、これも「旧土人保護法」同様に差別感のあるものでしょうか。

妊娠中絶の権利、あらゆる個体生命の尊重という点が密接に関係してきますので、一概に価値判断を下すことは難しいですね。例えば、時代性の問題。東京大学東洋文化研究所の所長を務め、国立民族学博物館の創立にも加わった文化人類学者泉靖一は、朝鮮半島満州からの引き揚げ女性がその過程で乱暴され、せっかく日本へ帰り着いたにもかかわらず次々に死を選ぶ現状に鑑み、自分が半島から引き揚げてきた直後、福岡二日市に堕胎医院を開設して秘密手術に当たったことが分かっています。一部マスコミにセンセーショナルに取り扱われましたが、現在では、例えば韓国の学者たちにも「人道的災難人類学」として評価されています。単純に「生命の尊さ」を主張するだけでは解決できない、難しい問題が潜んでいるわけです。ただし、「優生保護法」の根幹に優生思想があったことは間違いないので、生命を一定の基準で価値付けするという差別思想に侵蝕されていることは、間違いありません。