メモワール間で、年代や日付、人名の相違など、意見や事実が食い違っていることはあるのですか？

上にも少し述べましたが、同じ事象を扱っていながら、そうした細かな差異がみられることは確かです。実証主義歴史学の全盛期においては、そうした場合どちらが正しいのか、あるいは両方ともが誤っているのか、史実か否かの検証が第一義とされ、それに叶わない記録は軽視されました。しかし現代歴史学においては、双方が事象に対し異なることを述べているなら、なぜそうした見解が成り立ったのか、そうした異なる見方がどのように導かれたのかを追究した方が、何倍も有意義だろうと考えられています。そうした作業を通じて、事象をめぐる視点の複層性・重層性、考え方の違い、叙述をめぐるアピールの相違など、過去のありさまが多角的に判明してくるためです。この世界には、軽視して良い史料などどこにも存在しない、あるいは史料とならないものなどどこにも存在しないのです。重要なのは、どう読むか、何を読み取れるかという研究主体の視角であり、技術です。