「下部構造が上部構造を規定する」というテーゼについて、宗教や哲学、戦争などは恐らく上部構造だと思うのですが、それらが下部構造に影響を与えることはないのでしょうか。 / 上部構造は下部構造に対して「反作用」するもので、マルクスの考え方は単純な経済決定論ではないと聞いたことがあります。「反作用」とは何でしょうか。

マルクスはものごとを捉えるときに関係性を重視し、事象を実体視することを極力回避しました。構造についても同様ですので、彼にとっては常に、上部構造は下部構造があることで上部構造であり、同時に下部構造は上部構造があることで下部構造でありうる、という認識が一貫していたと思います。しかし、その力関係は対等ではなく、やはり現象的には下部構造の大きな枠組みのなかで、上部構造が生じ展開してゆくと考えられている。例えば戦争にしても、その勃発の理由や、兵力の動員のあり方、戦い方、規模、そして終結のあり方は、時代情況や社会情況によって大きく異なり、根本的には、財力や兵力を生み出し権力の基礎を規定している下部構造に支えられている。戦争が下部構造に影響を与えることはもちろんあって、それがゆえに革命へ至る経済的・社会的成長が生じうるわけですが、それも大きくは下部構造の枠組みの内部で起きる。もし、下部構造を一変させてしまうような戦争があったとすれば、それは社会の根本的なあり方自体を変えてしまうもの、戦争前の情況に復帰することさえ許さない打撃を与えてしまうもので、地球環境の大半が壊滅するような殲滅戦以外にはありえないのではないかと思われます。