なぜ19世紀フランスでは、歴史家が官僚として育成されたのでしょう。現在でも、歴史家が官僚として政治に関与することはありますか。

実際に官僚として活躍した人物もいたのですが、これはひとつの譬えです。つまり、19世紀フランスにおいて、第3共和制を正当化するナショナル・ヒストリーを創出すべく、古文書学校、高等研究院やソルボンヌといった国家的研究・教育機関に実証史学のパラダイムが導入され、歴史学のアグレジェが法的に認可されてゆく。フランスの教育制度は、国家が多大な投資を行って知的エリートを再生産してゆくのが特徴であり、歴史学はまさにそうした立場を獲得したわけです。アナールを牽引したブロック、フェーヴル、ブローデルらも、みなそうした経歴の持ち主であって、国家史・政治史批判を展開しつつ自身は国家権力を体現するという、矛盾も孕んでいました。