デュルケームは歴史を個人について考えることを批判したというが、なぜそんなにだめなのだろうか。

当時の典型的歴史学は、例えば政治史や国家史が主要なテーマで、そこに登場する個人、すなわち著名な政治家や軍人、思想家、英雄などによって、「歴史」が作られてゆくかのように記述していました。史料批判にしても、最終的に個人の心理のみに拘泥してしまう。つまり、個人が社会との関係において個人であること、個人の心理や言動が常に社会との関係において現出することが、当時はほとんど意識されていなかったのです。デュルケームはそうした個人に絶対的な価値を置く考え方(それは、何ものにも束縛されない個人の「自由意志」を、単純に認める立場でもあります)、あらゆるものを個に還元できるとする思想傾向に対して、外部から個を規定し個に還元できない集合性の重要性を訴えていったのです。