当時の考え方に、「人道的」という側面は欠如していたのでしょうか? それとも帝国大学であったために、人種に対する研究が行われていたのでしょうか? 江戸時代から通じる「野蛮さ」のようなものが、まだ残っていたのかもしれないと思いました。

「人道的」という言葉の意味、感覚が、現代とは違っていたというほうが、正確でしょうね。近代の日本社会=帝国日本においては、とにかく国権の占める位置が大きく、個人の意志や倫理よりも、そうした意味での公の価値観、秩序が優先されていたのです。帝国大学においては、国家に奉仕するのがまずは当然、と考えられていたのです(もちろん、それに対して反駁する、抵抗する人々もいたわけですが、やはり〈マイノリティー〉に過ぎませんでした)。ところで、安易に前近代を「野蛮」とみることはできませんので、注意が必要です。「ひとつの生命は地球より重い」などと声高に叫んでいながら、前近代にはなかった大量破壊兵器天文学的な生命を奪う現代のほうが、よほど野蛮とも考えられるからです。