訳書も原書も読んだことがないので偏見かもしれませんが、宮本常一がクロポトキンに傾倒したのは、クロポトキン自身の思想でしょうか。それを訳す際、大杉栄は自分の思想と混同しなかったのでしょうか。

クロポトキンについては、当時原書で読んだ人も少なくありませんでしたので、大杉栄が意図的に自らの思想を忍び込ませたということはありません。しかし面白いことに、宮本常一は『相互扶助論』を大杉の思想として受容したようです。同訳を収録した1964年刊行の『大杉栄全集』第10巻(現代思潮社)に寄せた回想のなかで、宮本は、「この書物の著者はクロポトキンであるはずなのに、私には大杉栄のような気がして、頭の中では区別がつかなくなってしまった」と述べています。