現在、『この世界の片隅に』など、反戦を想起させるような作品がよく取り上げられている気がする。新安保法案などから、社会が反戦ムードに傾いたのだろうか。それとも、戦争から70年以上経ち、我々が先の大戦と向き合えるようになった、客観視できるようになったからなのだろうか。
戦争映画のテーマの変遷を辿ることは、日本や世界の人々の戦争観を探るうえで有効だと思います。ぼくが育った1970〜1980年代は、ベトナム戦争後の冷戦期で、世界は常に核戦争の危機に直面していました。50年代以降、例えばハリウッド映画は、連合国側を正義とするエンターテイメントな戦争映画量産していましたが、核戦争の危機が最高潮に到達した80年代初頭になると、戦争による未来の破滅を警告する作品が多く作られるようになります。その前後、ベトナム戦争の狂気を描いたフランシス・コッポラ『地獄の黙示録』、マイケル・チミノ『ディア・ハンター』、そしてオリバー・ストーン『プラトーン』など、反戦をテーマとした作品が次々と生まれるようになりました。そうした大きな流れからすると、現在の『この世界の片隅に』などをめぐる動きは、社会全体の右傾化に比べ非常に小さなものに映ります。しかし、同作品がクラウドファンディングによって制作され、ミニ・シアター数館の上映から始まって口コミで全国興行化していった事実は、極めて大きな意義のあることと思います。