トンプソン・インディアンの山羊の異類婚姻譚が、人間の狩猟における無軌道な欲望を抑えるものになったということは、葛藤によるストレスの軽減をなす物語システムという意味では、どのように説明されるのか。

紹介した神話においては、「雌を殺すな、子供を殺すな」という点が強調されていますが、これはいいかえれば、「大人の雄は殺してよい」との表明です。また多く前近代社会・民族社会において、捕食と性行為とはアナロジーをもって結びつけられますが、若者による山羊との結婚は、彼が山羊の雌を自らの所有にした、それゆえに競合する雄は戦って殺してよい、との表明でもあると考えられます。そうした意味でこの神話には、心理的葛藤の緩和の機能と、無軌道な欲望の抑制機能とが同居しているのです。