トランス・スピーシーズ・イマジネーションの事例として、植物に関するものは存在しないのでしょうか? / 輪廻で取り上げられるのは動物の場合が多いように思うのですが、植物は輪廻するものとしては想定されていないのでしょうか?

存在します。のちの、「巨樹から生まれしものの神話」で扱うつもりですが、とくに列島社会は、もともと人間を草木の一種であると考えていた形跡があります。ただし輪廻に関しては、もちろん釈迦が樹木神になる物語りもあるのですが、やや注意して扱うべき問題もあります。というのは、仏教ではもともと、草木を有情すなわち意識を持つものとは捉えず、生命の枠組みから除外している時期があったのです。これは、ランベルト・シュミットハウゼンという仏教学者が明らかにしたことですが、大乗仏教化に伴い殺生禁断・肉食禁忌を徹底し始めた仏教教団が、食事における無用な葛藤、食事を供する一般信者たちの葛藤を排除するために、植物を生命の範疇から除外したらしいのです。また、これは授業でも少しお話ししたかと思いますが、仏教でいう樹木神は多く主託神であり、樹木を容れ物としている精霊であって、樹木それ自体の神格化ではありません。動植物の神話の分析は、このようなことにも注意して進める必要があるのです。