日本では、言語論転回による実証主義批判に関する議論は振るわなかったとのことだが、その原因がよく分からなかった。 / 実証主義の理論を持たない歴史学者について、真偽は経験をもとに測られ、議論は歴史哲学分野に丸投げしてしまったとのことだが、歴史哲学分野には理論があったのだろうか?

まず、実証主義歴史学には理論が存在しませんので、多くの専門的歴史学者は理論を学んでいません。とくにマルクス主義が崩壊して以降は、理論に対する忌避感が強くなった面もあり、とにかくできるだけ多くの史料をできるだけ深く読むことに、歴史学教育の主眼が置かれてゆきました。よって、言語論的転回の議論に、多くの歴史研究は付いてゆくことができなかったのです。一方の歴史哲学の分野は、まさに言語論的転回、歴史の物語り論の中心が議論されている場でした。歴史学者の多くは、言語論的転回は「歴史哲学の分野の議論」であって、「歴史学が対応すべき問題ではない」と位置づけていたのかもしれません。