万世一系の日本と比較して中国は王朝交替があり、王族はいつも自身の保身のため、占いを重要視していたということでしょうか。

確かに、権力の発生するところには、必ず卜占も伴いますね。中国と日本では、王朝や領域、各種民族集団の規模も違いますので、単純に比較はできません。何より、日本で使われた卜占のルーツはほぼ中国にありますので、同一文化圏のなかの中央と周縁部と理解すべきところです。しかしそれでも、日本においても、多くの卜占が権力の維持のために動員されました。弥生時代に伝播した鹿卜は現在でも命脈を保ち、古墳時代に導入された亀卜は長く宮廷の正統な卜占法でした。7世紀以降には、もともと都城占定の相地法として輸入された陰陽五行の一部の知識・技術が、式占を中心とする陰陽道として展開を遂げています。摂関時代の最盛期を築いた藤原道長は、自身の地位を政敵から守るために(そのなかには、恐らく神霊的なものも含まれていました)、辟邪の力を持った武士や陰陽師を近侍させ、解夢・占夢のエキスパートらも従えていました。ただし、権力維持とは関係のないナシ族に多種多様な卜占が遺存しているように、卜占は必ずしも権力とのみ関わって発展してくるものではありません。苛酷な自然環境のなかで生命を繋いでゆかねばならない人々、それこそが日常生活である民族社会にあって、長期にわたる生活/生活知・経験知の積み重ね、すなわち自然観察の結果によって紡がれた自然との交感の方法、生きるために自然現象を社会事象に転換する方法こそ卜占の意義なのです。