占文の内容にある「戦争の有無」とは、他国などから攻撃されることでしょうか。人為的な事柄まで占いの結果として予想されるのは、違和感があります。

まず、個人レベルで使用しうる卜占に出てくる「戦争」は、やはり災害としての戦争なのです。自分にはまったく関わりのないところで発生した戦争が、自分の生活領域を侵蝕してくる。それをいかに事前に知るか、という問題になっています。しかし、『開元占経』禽占に出てくる戦争の事例は、戦場に主体的に関わっている場合の「軍占」が多いでしょう。授業でもお話ししましたが、京房が開発したものが大部分です。戦場においては、敵の動きを察知するために、鳥の群れの様態が非常に分かりやすい指標となったようです。早くに兵法書孫子』には、飛び立つ鳥の動きから敵軍を察知する方法が書かれ、日本へも伝わって、『古今著聞集』巻九において、源義家が後三年合戦で伏兵の存在を知るエピソードに出てきます。京房のそれはより抽象的なものですが、『孫子』などの鳥への注目を、観念の面において発展させたものと考えられます。