私周辺の人間のなかで、「歴史は勝利した者たちにより叙述されたものであるから、どれくらいの歴史内容が嘘なのか計り知れない。ましてや日本の歴史問題である慰安婦、南京事件などもどれくらい真実なのか分からない。もしかするとすべて嘘なのかもしれない」という考え方を持つ人が少なからずいるみたいです。このような歴史観に基づく態度について、どのように思われますか。ここにも「歴史修正主義」的な態度がみられるのでしょうか。

歴史修正主義」はhistorical revisionismの訳語ですが、あたかも良い方向へ変更されるかのような印象を与えるので、あまり適切ではないかもしれません。それはともかく、質問のような態度ももちろん、いわゆる「修正主義」に含まれます。しかし、「修正主義」の場合は意図的・自覚的に事実を歪曲する操作がなされますが、上記は単に、国家のあり方に無自覚にアイデンティファイし、国家に対する批判に防御的対応をとるあまり、事実から目を背けているだけだろうと思われます。「歴史は勝利した者たちにより叙述される」とは、ある意味では正しいのですがある意味では正しくありません。この授業を受けてきた学生さんなら、世界にはもっと多様な史料が存在しており、「勝利者」の意図が介在しない言説もたくさんあり、また歴史学が、それら支配的言説から漏れ落ちてしまうものをすくい上げる努力を続けてきたことを学んだはずです。よって質問のような態度は、自分で主体的に調査さえしていない誤った仮定に基づき、自分の感覚的な意見をもっともらしく正当化しようとしているに過ぎません。