洪水や地震などの歴史が、日本において重視されない、または伝承されない理由は何なのでしょうか?

重視していないわけではないだろうと思います。事実、地震津波の頻発する地域では、その危険や避難の方法を訴える口碑、それについて明記された石碑などの類が存在します。しかし、近代以降、列島社会は大きな流動化のなかにあります。先祖代々同じ場所に暮らしているという家は少ないでしょうし、またあったとしても、昔ながらの共同体には連結していない。災害伝承を語り継ぐためには、地域に密着した強固な共同体が前提になりますが、現在はその存在が大きく揺らいでいるのです。また、列島社会全般に歴史意識が希薄な点も、大きな要因かもしれません。これは自然環境の豊かさに起因していると考えていますが、列島自体が絶妙な緯度・経度にあるために、人間が環境に大きな傷跡を与えても、それがしばらくすると回復してみえなくなってしまう。ゆえに、人間が過去に何をし、それが現在にどう影響を与えているかといった、歴史認識が育ちにくい。それゆえまさに、「のど元過ぎれば熱さ忘れる」ことが一般化してしまうのでしょう。