樹木から生まれた人間の一例として桃太郎が挙げられていましたが、桃太郎伝説のルーツはヤマト王権のキビツヒコだと読んだことがあります。とすると、桃から生まれたくだりは後付けになると思いますが、これにはどういった意味があるのでしょうか(個人的には、神仙思想のにおいを感じます)。

桃太郎とキビツヒコとの関係はよくいわれることなのですが、しっかりと立証できているわけではありません。ただし、吉備津神社の縁起伝承は、中世後期以降多岐に渡って作られてゆき、人口に膾炙してゆきますので、まったく無関係ではないかもしれません。なお、桃は質問のとおり神仙の象徴で、不老不死の仙果とされます。列島ではすでに邪馬台国の時期(奈良の纒向遺跡をその遺構とすれば、ですが)、神仙思想とともに中国より輸入され、桃を用いた祭儀が行われたらしいことが、考古学的に確認されています。中国では、桃の花の咲き乱れる神仙境のことを「桃花源」といいますが、河川を通じてその世界のものが俗世を訪れる、逆に川を遡ってゆくことでその世界に分け入ってゆく物語が、多く残されています。川上から桃が流れてくる桃太郎の冒頭は、そのヴァリアントのひとつです。