縄文以前の民族構成が、大陸などからの人口流入により複雑なものとなっていたということについて、日本人=単一民族説は誤りであると仰っていましたが、民族系統は、国家成立以前の科学的なところで判じられるものなのでしょうか? / 複合民族や単一民族といったときの、民族と民族の境界線は何で決めているのですか。 / 生物学的には、北海道地域にいた人々と南方にいた人々とに、どのような相違があったのでしょうか。

まず、〈民族〉とはあくまで社会的・文化的概念であり、〈人種〉のような生物的概念ではないことが重要です(実は人種自体も、生物学的概念としては非常に曖昧なのですが)。すなわち、人種的には同一であっても、別々の民族が存立することは可能なわけです(その境界は、それぞれの集団への帰属意識に基づきます)。また「日本人」という言葉の問題もありますが、これを「日本国籍を持つ者」と定義するならば、そのなかには多くの「帰化」した他人種・他民族を含み、沖縄やアイヌの人々も含み込むことになりますので、単一民族説は当然成り立ちません。日本では国籍取得要件が血縁主義なので、「日本人」という定義が制度によるものではなく、あたかも生得的なものであるかのように錯覚してしまうのです。そのうえで縄文時代の人々の問題ですが、北方、南方、そして朝鮮半島などから、社会的・文化的集団を異にする人々が流入し、それらが列島内を移動/定着してゆくなかで次第に交配が進んでゆくわけですから、そもそも単一民族などという概念とは無縁であることは自明です。土器に関する説明でもお話ししたように、地域による特色の大きな差異は、民族的な相違と位置づけてもよいのではないかという議論が出ています。日本列島全体における均質性が形成されていない段階では、「地方色」という概念自体が成り立たないからです。