水難の象徴であった蛇が、なぜ女性的なイメージを付与されるようになったのでしょうか。

いろいろな説明の仕方ができると思いますが、ひとつの契機は水にあります。蛇が低湿地に住み、常に水との関わりにおいて語られてきたことはお話ししましたが、実は女性も水との密接に関連付けられ、語られてきました。月や潮の干満は女性と同一のカテゴリーに入れられており、世界的にも、泉や河川の神格は女神であることが多いようです。文化を男性、自然を女性とする二項対立図式のなかで、女性と水辺は密接に結びつけられてゆく。ローレライやバンシーなど、ヨーロッパでは川辺に出没する女性の幽霊・妖怪の類に事欠きませんが、日本列島でも、水辺や川辺に姑獲鳥、蛇女、皿屋敷のお菊や四谷怪談のお岩など、女性の怪異が多く出没します。古い時代、蛇が男性象徴であった頃には、女性は彼らの訪問を受ける存在(いわば巫女のようなもの)でしたが、蛇を取り巻く言説と女性を取り巻く言説が類似のものになってゆくにつれて、性別のポジションが転換したのだと考えられます。