縄文時代は母系社会だったのでしょうか? / 動物のシンボルで、メスが重視された事例などはあったのでしょうか。

縄文時代については、墳墓のあり方や遺存人骨のDNAを調査してゆくと、母系制社会、もしくは父系偏重でも母系偏重でもない双系的な親族構造がみえてきます。例えば成人儀礼である抜歯の習俗の実施情況をみると、女性・男性の区別はほぼ存在せず、すなわち大人になることの意味に性的な格差がなかったことが想定されます。女性が首長の座に就くことも少なからずあったようです。この傾向は、古代国家により家父長制が採用されて以降も、基底的な社会構造として持続してゆきます。列島においては、外来要素に基づく政治的要請なくしては、男尊女卑といった考え方は根付いてこなかったのです。ただし、縄文以降も継続的にみられる女性の神格化は、主に男性視点に基づくものです。男性による女性の神格化は、表面的には崇拝であっても、内実は疎外である場合が多いのです(生命の象徴、豊饒の象徴としての一面を強調し、女性の全性質を代表させてしまうためです)。そこから女性性の収奪へと進むのは、私たちが考えているよりずっと近道であったと思われます。なお、人間以外の動物表象では、雌雄の判別できる事例は多くありません。ただし、イノシシがその多産性ゆえに重視されたとするならば、イノシシの土偶や、ヘビとイノシシとが一体になっているイノヘビと呼ばれる土器装飾において、イノシシは雌であると考えられるでしょう。下記のカエルも同様で、とくにサンショウウオと一対に表現されているばあい、これが男根表象ならば、カエルは雌であると解釈できそうです。