実際にどのような神話が存在したかは分かりませんが、縄文時代には文字は存在しませんので、もちろん口頭で伝わってきたと思われます。しかし口頭伝承が馬鹿にできないのは、例えば王を持たないエチオピア・ボラナ社会の人々について、年齢階梯制に基づく首長の就任時期で区分された口頭年代史を、70代15世紀まで遡って物語ることができるとの報告がある点です。世界各地に、文字が発生することによって人間は真の記憶力・思考力を失ってしまったという文字忌避伝承が残っていますが、文字に記憶を依存するようになったわれわれよりも無文字社会の人びとのほうが、数段記憶力に長じていた可能性はあります。
