弥生時代になると首長が登場するとあったが、縄文時代の抜歯も身分を示すと聞いたことがある。縄文の身分差と弥生のそれとは違うのだろうか? / 強力な首長の出現といった文化的なことは、どのような事象から判断できるのでしょうか?

春成秀爾さんの説ですね。抜歯は縄文晩期の西日本で最も発達しますが、その形式は大別して、犬歯を上下とも抜くもの、上の犬歯と下の切歯を抜く二通りがありました。春成説では、抜歯が成人の儀式と婚姻の儀式において行われたとみて、ほぼ全員が成人儀礼で上の犬歯を抜き、そののちの結婚の儀礼において、生まれた集落に留まる者は下の切歯4本を、田の集落に移住する者は下の犬歯を抜いたとされています。また、上の切歯をギザギザに削る叉状研歯が全体の1〜2割にみられ、装身具などを持っている点から、「特別な血統」と考えられているわけです。弥生化が比較的容易に進んだ西日本のこと、階級文化の前兆がみられたとの解釈も可能かもしれません。ただし、縄文の平準化社会の特性を重くみるならば、これは政治的・社会的・経済的な地位の上下を示すのではなく、シャーマンなど特殊技能を期待された者の家筋だと推測することもできます。現時点では、後者の点に弥生の階級との差違を見出しておいたほうがよさそうですね。なお、主張の出現については、授業でもお話ししたとおり、他と隔絶する規模と副葬品を持った首長墓の存在が指標となります。