死者の世界に往くには水を渡ってゆくのだ、という発想はどこから生じたのでしょうか。

確かに、これは普遍的に存在しますね。ひとつには、やはり人類史において、海や川が彼岸と此岸を隔てる象徴的な存在だったからだ、ということができるでしょう。広く深く、また流れの速い水場であれば、やはり人力で渡ってゆくのは困難である。つまり、容易には行き来できないものとしてあの世/この世を区分する場合、間に水場を設定するのが最も用意だったのだと考えられます。この場合水は非常に両義的な存在で、死霊を招き寄せるとの意味付けもあれば、死者は走水を渡れないとする伝承も各地に残っています。また、列島の装飾古墳に特化して考えれば、それが半島に由来する形式であること、海岸部から発生してくることに注意してみると、海の彼方に神霊の世界が存在するという海上他界観や、海の向こうの故地に対する感覚が反映されていることも想定されます。