地獄という概念は生まれたのはいつからでしょうか? / 古代ギリシャには、死者の国へ渡る船の船賃を埋葬したり、エジプトではアヌビスが審判したりといったことが確認できますが、日本の冥界ではどうだったのでしょうか。

地獄自体は、インドの冥界の概念が仏教に取り込まれ、次第に整備されて、7〜8世紀に日本列島へもたらされます。経典として決定的な影響を与えたのは『正法念処経』で、極楽や地獄の描写が豊富かつ詳細であり、これが源信著『往生要集』の原拠となって、平安時代浄土教流行の引き金となってゆくわけです。またそれより恐らくは先行して、仏教説話に描かれる地獄が列島にもたらされました。唐代に編纂された説話集、『冥報記』などが主な典拠です。これに影響された日本現存最古の説話集、『日本霊異記』には、道を通じて現実世界と地続きに連なる地獄が描かれています。そのなかには、地獄を仮に体験した高僧が、「ヨモツヘグイをしてはならない」と警告される場面もあり、『古事記』にみる黄泉国神話との習合もうかがえます。閻魔王による審判などもこうしたなかで次第に受容されてゆくので、地獄以前の「黄泉国」段階では見出すことができません。ただ、『古事記』のオホクニヌシ神話には、再び黄泉国的冥界である根国が登場、そこにはギリシャ神話のハデスのようにスサノヲが君臨しており、地上から降りてきたオホナムチへさまざまな試練を与え、最終的に地上の支配者へ鍛え上げてゆく「成長神話」が語られます。