中世以降の日本では、天皇制を維持したまま実質的な国家運営権力を争う形が多いと思いますが、なぜ天皇制そのものをなくして新たな王となろうとする人物がいなかったのでしょうか。

授業でも少しお話ししましたが、古代から現代に至る日本列島の歴史のなかで、近現代が最も天皇制が安定している時代です。それ以前は、いつ天皇制が消滅してもおかしくない情況にありました。近世の江戸幕府などは、よく「宗教的権威は天皇、世俗的権力は将軍が体現した」などと説明されますが、その身分を天皇や朝廷によって保証される一方で、将軍は天皇の執り行う種々の儀式・祭祀を主催しており、一定の宗教的権威も手中にしていました。中国では、皇帝が常に政治の中心でもあったため、これを廃して新たな王権の樹立されることが繰り返されましたが、日本では中世以降、天皇が政治の中心から退いていったために、あえてこれを廃する必要がなかったのだとも考えられます。半年の授業を通して、もう少し深く考えてみましょう。