現在アイヌは、北海道、サハリン、本州東北部にしか住んでいないのでしょうか。私の住む幸手市のサッテは、アイヌ語由来の地名だと聞いたことがあります。
現代においては、いわゆる本州地域にどの程度のアイヌの人びとが暮らしているかは、判明していません。調査に応じない人びと、申告のない人びとがいるためです。ただし、東京に相当数の人びとがいて、独自のコミュニティを作っていることは分かっています。文化人類学の関口由彦さんに『首都圏に生きるアイヌ民族』(草風館、2007年)という本があり、彼らの多様なライフヒストリーが収められています。伝統を重視する北海道のアイヌに比べ、首都圏の彼らは、やはり少し異なる視点を持っています。例えば、アイヌの祭祀の代名詞ともいうべきイヨマンテ(飼熊送り)に対してですが、アイヌの心性では子熊の命を精霊の世界へ送ると解釈するものの、首都圏のアイヌは「やはり殺害であり、可哀想だ」といった談話がみられます。