キツネの養殖について、記録がほぼ残っていないとのことですが、調べれば出てくるものなのですか?
当時刊行されていた(すなわち当時の価値観で書かれた)カラフトの写真集や、毛皮養殖に関する技術書、皮革産業の歴史書などが存在しますので、それを手がかりに分析してゆくことが可能です。7月に行った国際会議での報告を準備してゆく際、僥倖であったのは、まったく別の目的で読んでいた社会学の研究書に、毛皮養殖に関わる記述が出てきたことでした。それは、大阪の被差別部落に関する聞き取り記録で、1990年前後にその地域の有力者であった老年の男性が、若い頃に親戚の伝手を辿って樺太に渡り、伯父の養殖場で働いたことに関する記録です。部落出身の人々が樺太の毛皮養殖事業に進出していたこと、その労働の実態、養殖所に勤務していた人々は屠殺には関与しなかったことなど、貴重なデータを得ることができました。