なぜ養殖には小型獣が用いられたのでしょう? シカなどは利用に向かなかったのでしょうか?
近代日本の毛皮養殖については、近世までに北方地域で行われていた毛皮交易の歴史を踏まえて行われています。日本は中世辺りから本格的に参入してゆきますが、古来、中国王朝とその北方周辺地域で珍重された毛皮は、最高級のものがクロテン、そしてギンギツネなどでした。中国王朝はアムール川周辺の北方狩猟民から安定した貢納を得るために、ときに同地域へ出兵し、可能な限り緩やかな従属関係を結んできました。13世紀には、アイヌがカラフト北部へ進出して同地の狩猟民ギリヤークなどと軋轢を起こしますが、当時のモンゴルは、ギリヤークからの懇願を受けてカラフト・アイヌを鎮圧します。これが、近年話題になった「北からの元寇」と呼ばれるものです。のち、アイヌは日本と中国とを仲介する交易の担い手となり、中近世において重要な役割を果たしてゆくことになります。一方、のちにカナダとなる北アメリカ地域にもイギリスやフランスが進出し、現地の狩猟民と契約を結び、キツネ、ビーバー、ラッコなどの大量捕獲を行ってゆきます。近代日本の毛皮養殖は、国内の服装の近代化・西洋化と軍備における需要に加え、外貨獲得の目的がありました。よって、歴史的に高級品とされる貴重種の毛皮が養殖の対象となったのです。