定住が災害を生むとの話は一理あるが、これほど災害が多い国で定住が進んでいることにも、何か意味があると思う。

ひとつ考えておかねばならないことは、現代社会が本当に定住社会なのか、定住社会とはそもそもどのような状態をいうのか、ということです。これは、考古学者・人類学者の西田正規さんが指摘していることなのですが、よくよく考えてみると、現代もよほど流動化している時代です。2代、3代にわたって同じ場所に生活しているひとなど、都市部などではほとんどいないかもしれない。むしろ、数年スパンで小刻みに住所を変えているひとも、少なくないでしょう。地方でも、祖父、曾祖父以上まで遡れる家は、やはりあまり多くないのです。そういう風にみてみると、現代社会に暮らしている人びとも定住をしているとはいいがたく、現代社会は強固に流動化しているといえるのではないか。にもかかわらず、誰もが現状を定住社会と信じて疑わず、彼らの心は何らかの土地に束縛されているわけです。そうした矛盾について、しっかり気づき考えてゆくことが必要でしょう。