日本以外に、府官制で用いるような幕府を開いた国はあったのでしょうか?
朝鮮三国は、倭と競合して劉宋に将軍職を求めており、やはり『宋書』列伝/夷蛮伝に、高句麗王は征東大将軍、百済王は鎮東将軍に叙任されていることが確認できます。つまり、高句麗も百済も、そしてヤマト王権も、劉宋のレベルでみると〈幕府〉なのです。なお、幕府はいわば武人による臨時政権でしたので、武よりも文を重視する東アジア世界にあっては、将軍が王族などの高位出身者・貴種であるか、文の面でも卓越した存在でなければ成立しません。朝鮮半島では高麗末期に武臣政権が出現しましたが、これは過度な文官層の優遇、武官層の差別により武臣がクーデターを起こし、政権を奪取したもので、それぞれの武臣たちの私的武力を基盤としており、〈幕府〉とはやや異なります。元の侵略によって武臣政権は100年ほどで終わりを告げ、朝鮮では再び文官重視の国政が始まります。その意味で、鎌倉時代以降江戸時代まで700年近くも〈幕府〉が続いた列島の国政のありようは、やはり東アジア的には特殊であったといえるでしょう(もちろん、江戸時代も中期以降は果たして〈武士政権〉といえるかどうか、議論の余地はあると思いますが…)。