奈良時代には仏教が国策として推進されていたのに、現在では「無信仰の国」といわれるほど仏教が広がらなかったことに、疑問を持った。

なるほど、そういう認識なんですね、ちょっと驚きました。自分が僧侶だからいうわけではありませんが、日本は国際的に「仏教国」と位置づけられるほど、仏教信仰の強い国です。2018年の文化庁の調査報告によると、日本の総人口約1.268億人に対し、総信者数は181,164,731人、うち神道系が47.6%の86,166,133人、仏教系が47.1%の85,333,050人となっています。これは、世界的にも中国に次いで2番目の規模です。総信者数が総人口を上回るのは、奈良時代以降の神仏習合の伝統が持続し、神社の氏子であり同時に寺院の門信徒でもある、という人が多いからでしょう。仏教は江戸時代、寺院の門信徒かどうかが戸籍としての役割も果たしていましたので、強固に普及するに至りました。神道はほぼ仏教と一体化していましたが、近代に分離し、国家神道のもとで地域を掌握してゆきました。結果、両宗教とも、その地域に住んでいるから、その家に生まれたから、という理由を大半として、信者の再生産を行っています。そういう意味で、日本の宗教の形式は、西洋的なキリスト教の形式とは異なる。それゆえに、「無宗教」などといわれるのですが、それは西洋の概念に当てはめて理解しようとしているからに過ぎません。日本には日本固有の、宗教の形態があると考えるべきです。例えば7〜8月のお盆休み。近年は海外旅行に出かける人も多いですが、それでも大部分の人びとは帰省し、墓参を行う。そのために、飛行機や新幹線は大混雑となり、高速道路は大渋滞となる。このような祖先信仰の強固さは、「無宗教」という言葉とは大いに矛盾します。初詣なども同様でしょう。若い学生諸君のなかには、本当の意味で「無宗教」の人びともいると思いますが、大部分は、自分が行っている宗教行為に無自覚なのではないでしょうか。