講義で伺った狩猟採集民の神話が動物や自然をもとに形成されたものが多いのに対し、古代ギリシアやローマなどの神様は人間の姿をしていることが多いと思います。これは、それぞれの生活の仕方やアニミズムに由来するものなのでしょうか。
必ずしも、古代ギリシャや古代ローマの神話に、アニミズム要素が欠落しているわけではありません。セウスをはじめとするオリュンポスの神々は、概ね何らかの自然現象、環境要素を反映していますし、鳥や獣へも自由にトランス・スピーシーズすることが可能です。大地の女神デーメーテールの娘ペルセポネーは冥界の支配者ハーデースに連れ去られるが、ゼウスが仲介に入って解放されるものの、空腹に耐えかね冥界のザクロを12粒のうち4粒まで食べてしまい、1年の1/3を冥界で暮らすことを余儀なくされる…という神話は、明らかに季節の循環・交替を説明するものです。ただし、北方狩猟民の神話がこれら古代ギリシャ・ローマの神話と異なるのが、前者が共同体レベルで生活に密着して語られているのに対し、後者は(いまわれわれの読むことのできるものは)叙事詩や演劇などの文芸化したものである点です。それゆえに、恐らくは共同体レベルの神話を題材にしつつも、個々の詩人、劇作家らによる脚色が施されています。社会的機能よりも、娯楽としての意味が強くなったものです。ついでに書きますと、『古事記』や『日本書紀』はこれらに対し、国家レベルで、一定の政治的目的のために再構成されたものです。神話を研究したり比較したりする場合には、それぞれの神話がいまどのような段階にあるのか、しっかりと把握しておく必要があります。