植物に対する神話は、あまりないのだろうか。 / 星との異類婚姻譚はないのか。人間には近しいはずだろう。

授業でも少し触れましたが、植物関係の異類婚姻譚は数多く残っています(ぼくの専門のひとつなので、データベース的なものも作成しています)。列島文化でよくしられているのは、「三十三間堂棟木の由来」という、浄瑠璃化されて広く知られるようになった物語です。これは例えば、……熊野地域で樵をしていた平太郎のもとへ、ある美しい女性が訪ねて来て夫婦となる。二人には子供も生まれるが、やがて女性は、「私は実は、この山中に古くから生きる巨樹の木霊です。しかしいま、京都の三十三間堂の棟木にするために伐られようとしております」と告白して消えてしまう。一方熊野では、巨樹が伐られて横倒しになるが、なぜか何人で引っ張ってもびくとも動かない。途方に暮れた天皇が、「この木を動かすことのできた者には褒美を与える」と触れを出したところへ、平太郎父子が現れる。子供が巨樹に上がって音頭を取ると、それまでまったく動かなかったものが、あたかも自ら動き出したようにするすると引かれていった。父子は天皇から充分な褒美をもらった……といった内容です。もともと、造営される建築物は多様で、地域によって、寺院である場合もあれば城郭である場合もありました。それが、浄瑠璃が「三十三間堂」を題材にしたことで、地域の伝承も影響を受け変質してしまったのです。ちなみに、主人公が樵であることからも、これが、「生業に伴う後ろめたさ」を前提とするTSIに属することは確かです。なおなお、星については、それを個々の天体として意識しているのか、単なる天の模様と考えているのかで、まったく反応が違います。地域や時代によって大きな相異がある、といえるでしょう。星に対する知識の発達した中国では、星の精霊として天人、天女が表象されることがあります。いわゆる七夕の牽牛、織女もそうですね。いわゆる天人女房譚は、天女と結婚した男の試練を描いていますが、そういう意味では星との異類婚姻譚といえるでしょう。