中等教育における歴史の授業は、歴史学といえるのでしょうか。

歴史学を、近代に成立したひとつの学問的制度と理解するなら、中等教育での歴史科目は歴史学ではありません。歴史学の成果のうち、通説的な部分を教養として学び、理解・記憶しているに過ぎません。ただし、記憶や理解の過程においてもろもろの思考がなされ、ときには史料を読み込んだり、他国の事例と比較するといった作業も行われるでしょう。それらは、一般レベルで過去について思考し、もろもろの物語りとして受容してゆく、〈歴史実践〉と位置づけることができるでしょう。しかしその場合も、例えば先行学説の批判、史料批判や読解、それらに基づく歴史像の構想、新たな成果の論理的叙述と学界への発表といった、一連のアカデミズムの手続きを経るわけではない(そして、それらの方法と技術を専門的に学んでいるわけではない)ので、歴史学とはいえないのです。