国や地域を越えた神話の研究を、大学の4年間の学びで行うのは、範囲が広すぎて大変でしょうか?

古代神話の研究は面白く、また一般にも関心が高いところだと思います。しかし、これを扱うのはなかなかに厄介です。とくに比較神話ということになると、複数の言語に精通する必要が出てきます。例えば、あくまで評論レベルでギリシャ神話・日本神話の比較をするのならば、両方とも現代日本語訳で読めば事足ります。しかし学術研究として行うなら、まず現存最古のテクストまで遡り、それがどのような字句・表現で成り立っているかを、原語で確認しなければなりません。そのうえで「原典」が散佚してしまったものなら、もともとの原テクストではどのような状態だったのか、さらにその前の口承の段階ではいかなる形式であり、それはいつまで遡ることが可能なのかを、関連する史資料を博捜しながら突き詰めてゆく必要があります。それだけで、厖大な時間と労力を要する作業でしょう。現在われわれが読むことのできるギリシャ神話は、いわば芸術や娯楽として、演劇や詩文の形式で残った文芸の段階です。一方の日本神話は、支配層によって政治的目的で整理された、国家神話の段階です。異なる次元にある神話をどう比較すればよいか、理論的に考えなければなりませんし、なぜ比較するのか、比較によって何を導き出そうとするのか、正当かつ説得的な問題意識が必要です。よってもし神話を研究したいのであれば、卒論段階ではあまり対象を大きく拡大しないほうがよいでしょう。アジアなら、授業でお話ししているような、中国・朝鮮・日本との比較で考えるほうが妥当です。それだけでも、かなり厖大な情報を扱うことになりますので。