帝国日本の植民地経営、戦争に関する賠償金を、例えば東南アジア諸国に対しては、経済協力の形で負担するよう承認してもらっていたことを初めて知りました。しかし、戦後荒廃していた日本に、アジア諸国は何を「期待」したのでしょうか。

確かにそのあたりのことは判断が難しいですが、戦前・戦中の日本の技術力についてはそれなりの評価があり、またサンフランシスコ講和条約についてはアメリカの実質的な勢力下で連合諸国の承認がなされましたので、アメリカの意向も忖度されつつ決断がなされたのでしょう。具体的には、例えば1959年に締結されたヴェトナムとの賠償協定では、まず冒頭第一条に、「1)日本国は、現在において百四十億四千万円(一四、〇四〇、〇〇〇、〇〇〇円)に換算される三千九百万アメリカ合衆国ドル(三九、〇〇〇、〇〇〇ドル)に等しい円の価値を有する日本国の生産物及び日本人の役務を、この協定の効力発生の日から五年の期間内に、以下に定める方法により、賠償としてヴィエトナム共和国に供与するものとする」「2)前項に定める生産物及び役務の供与は、最初の三年の期間において現在において三十六億円(三、六〇、〇〇〇、〇〇〇円)に換算される一千万アメリカ合衆国ドル(一〇、〇〇〇、〇〇〇ドル)に等しい円の年平均額により、次の二年の期間において、現在において十六億二千万円(一、六二〇、〇〇〇、〇〇〇円)に換算される四百五十万アメリカ合衆国ドル(四、五〇〇、〇〇〇ドル)に等しい円の年平均額により行うものとする」と定めています。金額は設定されていますが、「生産物および役務」で支払うとしている点が重要です。また第七条には、「2)ヴィエトナム共和国は、日本国が第一条に定める生産物及び役務を供与することができるようにするため、利用することができる現地の労務、資材及び設備を提供するものとする」「3)この協定に基く生産物又は役務の供与に関連してヴィエトナムにおいて必要とされる日本国民は、ヴィエトナムにおける所要の滞在期間中、その作業の遂行のため必要な便宜を与えられるのとする」「4)日本国の国民及び法人は、この協定に基く生産物又は役務の供与から生ずる所得に関し、ヴィエトナムにおる課税を免除される」とも規定されており、生産物と役務を供与する日本国民の待遇が保証されています。賠償協定が実質的にはいかなるものであったか、明確に知られると思います。