ヨーロッパ諸国が北回り行路で北米に侵入した遠因としてキリスト教の習俗が関係しているなら、キリスト教含め宗教が自然の迫害を推進する一番の加害者である、と位置づけられますか?
もう遠い昔に共編の本に書いたことですが、確かにリン・ホワイト『機械と神:生態学的危機の歴史的起源』以降、今日の地球規模の環境破壊の淵源はキリスト教にある、という見方が人口に膾炙しています。事実、授業で扱っている大航海時代以降の植民地収奪については、キリスト教が引き金を引いている文脈もなきにしもあらず、です。しかし、例えば『旧約聖書』創世記にみる人間の位置づけ、人間のために他の動植物があるという位置づけは、世界の資源化の原理であるようにもみえます。しかし近年は、創世記の同じ部分が環境保全の原理として認識され、「人間は神が世界をお作りになった状態が維持されるよう、保全する責任を持つ」という意味に解釈されています。つまり、宗教の論理が環境破壊を引き起こすかどうかは、やはり時代的・社会的条件に大きく左右されるのです。そうしてどちらかといえば、宗教は後付けの正当化の論理として利用されており、環境破壊の中核を生み出しているわけではないのです。前回の授業でも触れましたが、また例えばユダヤ=キリスト教の核ともいうべき牧夫の思想は、西アジアにおけるドメスティケーションの知識・技術から派生したものです。宗教から家畜化が始まったわけではなく、家畜化を通じて宗教が創られていったわけです。