◎1に挙がっていた重野安繹の論文にある「至公至平」について、先生はアジア的と仰っていたと思いますが、どういうことでしょう。アジアには公平な倫理観があるということでしょうか。

授業の冒頭の崔杼のところで触れましたが、中国的史官=歴史編纂・保管・運用官の理想像は、天に対して公明正大なポジションを守り、その筆を通じて王権や国家の興廃を記して、後世のため勧善懲悪を実現することでした。六朝の梁の時代に編纂された文学論、劉勰撰『文心雕龍』巻4 史伝第16には、「歴史とは、王・百氏の事跡・興廃を資に勧善懲悪を示し、聖人の言動を核に社会秩序の維持を図るもの。ゆえに史家の責任は重く、恣意・私情は許されない」旨のことが明記されています。これが、アジアを代表する中国文化の歴史叙述の倫理なのです。重野の論文にみる「至公至平」は、明らかにこの系譜を引き継いでいます。