歴史小説も歴史理解に影響があると仰っていましたが、大河ドラマなどについてはどうお考えですか。

ぼく自身は、歴史小説にしても歴史ドラマにしても、factチェックという意味での関心はあまりありません。それらはあくまでフィクションであるわけで、事実の改変などに対する批判は、そもそも必要のないことです。むしろ、それらのフィクションを通じて過去への関心が喚起されたり、意見交換が活発化したり、これまで見過ごされてきた重要な事柄が社会に共有されたりすれば、素晴らしいことだと考えます。ただしその改変が、事実を歪曲することで弱者を抑圧したり、社会や国家間の断絶を生み出すようなものであれば、しっかり批判してその意図を検証してゆかなければなりません。大河ドラマに関しては、かつてほど社会的な影響力は無くなってしまいましたね。ここ数年の大河でみるべき価値があったのは(学問的に評価できるというより個人的な趣味も入っています)、『平清盛』や『八重の桜』でしょうか。前者は、古代〜中世が扱われること自体が少なく、映像的にもドラマ的にも丁寧に作り込まれていたので。後者は、いわゆる敗者の歴史から明治維新を捉え直しており、維新後の会津藩士たちが辿った苛酷な道のりを克明に描いていたからです。