キツネの養殖について、ロシアはカナダのケージ飼育の方法を知っていたのでしょうか。知っていたなら前例のある巣箱ではなく、なぜ放牧を選んだのでしょう。

 授業でもお話ししましたが、チャールズ・ダルトンがケージによる飼育方法を確立する1894年よりも前に、ロシアでは、アリューシャン列島〜プリビロフ諸島の調査中に青狐の棲息する島を発見、試験的飼養を開始しています。ダルトンの飼育方法も、当初は周辺の同業者以外に秘密にされていました。アリューシャンを航海しつつ独自の知識、技術を形成してきたロシアが、まず北米大陸にほど近いセミディ島へ青狐を移し、放牧を始めたのは自然な流れであったと思います。なお、ロシアにおける1914年の銀黒狐養殖はカナダのケージ式で、両者の飼育の相違は、やはり青狐/銀黒狐の性質の相違によるものではないか、という気もします。前者は人に馴れやすく(恐らくは人間をみたことがなく警戒心が希薄だった)、後者は神経質であるとの一般的見解があります。毛皮として高価なのは銀黒狐のほうでしたが、それゆえに飼育法も複雑だったのでしょう。