なぜマルクス主義は、古代をそんなに敵視するのだろうか。マルクス主義が破れた結果、古代の遺産が残っているが、もしマルクス主義が勝って中世にすべて移行していたら、いまの日本はなかったかもしれないと思うとゾッとする。
うーん、難しいですね、これも大きな誤解です。お話しした唯物史観は、現在から過去の流れを捉え、古代以降の政治・社会・経済の変転を説明するための考え方なので、唯物史観が古代を破壊したわけではありません。確かに、政治制度が大きく変わったとき、新たな体制が古い体制の象徴的な遺物、建築や肖像などを破壊することはよくあります。しかしそれは、マルクス主義だからではありません。それが証拠に、共産主義のソヴィエトや東欧諸国が崩壊したとき、民主政治を実現した大衆は、共産主義を象徴する伝統的建築物、レーニンの肖像などを次々と破壊していったわけですから。また、明治維新の際に近世的な神仏習合状態を破壊し、多くの貴重な文化遺産を損壊したのも、マルクス主義ではありません。それから、今の日本があるのは、順調に古代から中世、近世、近現代へと移り変わってきたからであって、古代が持続していれば、それこそ今の日本などありえないのです。ゾッとする必要はどこにもありません。