授業の冒頭で言及されていた象徴権力ですが、貰った側が恩義に感じない場合も発生するのでしょうか?

象徴権力の発現の仕方は、ご指摘のように多様性があり、どんな場合にも同じ状態で作用するというわけではありません。確かに、相手が恩義を感じないことで、発動しない場合もありうるでしょう。しかし、こうした行為が社会のなかでなされることを考えると、2者の間で行われた贈与・交換が社会のなかでどう受け止められるかが、当事者の思いと関係なく象徴権力を生み出す場合があります。例えば日本のように、お中元やお歳暮と、年中行事として物品の贈与・交換が行われている社会ではどうでしょう。AがBに物品を贈与し、Bがそれに対して返礼もしない、お礼状も書かないということであれば、彼らを取り巻く社会においてAの社会的地位が上昇し、逆にBのそれが低下することは自明です。『贈与論』を著した社会学者のモースは、贈与が次から次へ連鎖してゆく原動力は、贈与されることへの負債感だと述べています。象徴権力の基盤は、ある意味ではこの負債感なのだ、といえるでしょう。