『ゴジラ』の解釈が取り上げられましたが、映画が、当時の社会風潮であったり、政治背景を反映しているといえるのでしょうか? 映画を研究の素材とすることに、疑問を持ちました。

映画は総合芸術ですので、その製作にはたくさんの専門家が関与します。作家、脚本家、音楽家、美術家、カメラマン、演出家、そして俳優たち。製作会社や配給会社、その映画が売れる、あるいは価値があると判断して資金や資材、あるいは人材を出すスポンサー、公開されたものを批評する評論家たち、などなど。多様な職業の個人や集団が、それぞれに判断して製作に関わっているということは、映画はそれだけ複雑に社会化したテクストであるということです。関与している人びとが、みなその時代、その社会のなかで考え、実践しているわけですから、映画は、その製作に関わっている個人、集団の分だけ複雑に時代、社会と関わり、その情況を反映していることになります。伝統的な歴史学が史料としてきた古文書、古記録、個人が生みだした文学以上に、時代や社会が映り込む程度は大きいといえるでしょう。集合的で複雑な分だけ、史料批判も難しくはなりますが、現代歴史学では、史料として活発に使用されています。隣接する人類学や民俗学では、研究の素材としてだけではなく、記録・表現の媒体として専門的に研究してゆく映像人類学、映像民俗学などの分野が存在します。歴史学は、パブリック・ヒストリーにおいてカバーはしていますが、まだ大きく立ち後れているといえるでしょう。