蛇=雷神は、生命力の象徴としても現れると分かりました。東洋の龍は川の象徴の側面があると聞いたことがありますが、これもまた生命の象徴とすれば、蛇と龍の相違は何なのでしょうか。

例えば中国ひとつをとっても、龍や蛇に対する言及は無数に存在しますので、どこに視点を置いてみるかによって異なる様相を呈してきます。しかし概していうならば、蛇と龍の相違は上位神霊か下位神霊か、ということになるでしょう。例えば道教では、龍は水と関わりのある神霊ですが、異界にあって現実世界に力を及ぼす霊獣であり、王や皇帝の権威を保証するものとも考えられています。日本古代の北関東からは、人間が下位神霊の蛟(ミヅチ=水の精霊、蛇とほぼ同義)に働きかけ、上位神霊の龍へ報告をしてもらって、雨を降らせてもらおうという祈雨木簡が出土しています。また仏教では、龍とは水界を支配し仏教に帰依する八大龍王で、一般の畜生に過ぎない蛇とは、まさに雲泥の差があります。日本列島においても、仏教や道教が入ってくることで種々の改変が進みますが、やはりアニミズム的な情況を長く保存しており、強力な神格として大神神社のオオモノヌシ神、諏訪大社タケミナカタ神などが、蛇神として信仰されています。なんと中世の伊勢神道では、密教との神仏習合状態のなかで、アマテラスを蛇神と考えた時期もあったのです。